第１１回「お茶ノ水エレジー」

とにかくこの日は暑かった。まるで太陽とコールタールに挟み焼きされているような不快な暑さだ。そんな中、ふと橋の上で足が停まった。陽が落ちたせいもあるだろうが、不思議なくらいこの橋の上は涼しかった。川の畔は涼しいのだという事を身をもって初めて実感した気分である。心地よさに誘われて、しばらく橋の上から聖橋方面を眺めていると、お茶ノ水という町が実に小粋な町に見えてきた。オレンジと赤い電車が交差して滑り、水面にはライトアップされは聖橋のアーチが揺れ動く…少し大袈裟かもしれないが、僕にはそこが一瞬、古いフランス映画のひとこまのようにも思えてならなかった。これが情緒と無縁となりつつある今の光景だと思うと少しほっとする。