歌謡曲の醍醐味の一つに‘無意識の高揚感’というものがあります。そのつもりはなかったが気が付けば体がスイングしていたり手拍子をとっていたりした経験はみなさんございませんか?そして最近の歌では稀になった‘歌えるイントロ’。この二つを兼ね備えることはいわばプロの作家の腕の見せ所だったのではないでしょうか。
今回取り上げた『私の彼は左きき』はそんな要素がきっちり踏まえられた秀作です。僕は今や歌謡曲リスナー歴が12年目となったベテランですが(笑)、そんな僕が歌謡曲一年目にして虜になった一曲がコレです。今聴けばどの歌もどこかしら聴き所を見つけようとしてしまうような聴き方をしてしまいますが、この頃は単純なフィーリングで善し悪しを判断していました。だからこそ本当の意味での大衆性がこの歌にはあったのでしょう。
歌詞は千家和也さん専売特許ともいえる‘私の彼紹介シリーズ’を用いています。これはキャンディーズの『年下の男の子』や『内気なあいつ』と同じ手法ですね。この歌詞によって当時、無理矢理左ききに変えようとしたファンが続出したというから歌謡曲の影響力の凄さを物語っていますね。今のアイドルには不可能な現象でしょう。
そして注目すべきはサウンド面にも広がっています。例えばこの曲でギターを弾いているのは後のスーパーギタリスト高中正義さんであったり(←麻丘さん談なので事実!)、ベースは音色から察するに江藤勲さんのようにも思えます。歌謡曲という舞台でありながらこだわりのキャスティングが組まれているあたりはやはり筒美さんの人脈とセンスを感じますね~。 いずれにせよ、この歌は素晴らしい!実に70年代っぽいですし、ある種アイドルポップスのお手本のような作品です。
流行歌とは明解であっても単純ではいけない。この方程式が解けるか解けないかが、職人とアマチュアの差ではないでしょうか。
偉そうな意見ですいません(汗)
『私の彼は左きき』 麻丘めぐみ(1973年)
作詞 千家和也 作曲 筒美京平
小さく投げキッス する時もする時も
こちらにおいでと 呼ぶ時も呼ぶ時も
いつでもいつでも 彼は左きき
あふれる泪を ぬぐうのもぬぐうのも
やさしく小指を つなぐのもつなぐのも
いつでもいつでも彼は 左きき
あなたに合わせて みたいけど
私は右ききすれ違い 意地悪意地悪なの
別れに片手を 振る時も振る時も
横眼で時計を 見る時も見る時も
私の私の彼は 左きき
背中にいたずら する時もする時も
ブラックコーヒー 飲む時も飲む時も
いつでもいつでも 彼は左きき
あなたの真似して みるけれど
私の右きき直せない 意地悪意地悪なの
短かい手紙を 書く時も書く時も
誰かに電話を する時もする時も
私の私の彼は 左きき…