‘円舞曲’という響きを聞けば僕の場合、ヨーロッパのお城から流れて来そうな宮廷ワルツを連想します。しかもこの歌に関しては、作曲がスタンダード系を得意としている川口真ということもあり、確実にそっち系の曲だと思っていました。しかしそこはさすがプロフェッショナルですね。効果的な裏切りで見事な叙情的円舞曲を完成させています。このことは先に詞を書かれた阿久さんも同じ様な感想を書かれていました。ワルツだからと言って安易にイメージ先行で有りがちなパターンの曲を持って来られることが心配だったが、さすが川口真だと。
ロケーションは海辺のホテルと示されています。しかし豪華なリゾートホテルではないでしょう。この歌が書かれたのは昭和49年ですが、その当時ですでに少し古さを感じさせる様な洋館建ての小ぶりなホテルが似合うと思います。
女は酒を飲み、手紙を書き、見知らぬ男と踊ってみたりもしますが、最後にはやはり円舞曲がもの悲しく聴こえてしまう、、、歌というものは作り手がいくらコンセプトを明確に打ち出しても、結局は聴き手の心境が八割その歌のイメージを作り上げてしまうものですからね。だから楽しく踊るために流れている円舞曲も、この歌の主人公に取っては映画のクライマックスのBGMと変わらないのでしょう。
僕にとってもまた、この曲は思い出の一曲なのです。以前、事務所の社長であった久世光彦さんと歌謡曲の話題で盛り上がり、オフィスの一角で二人してこの『円舞曲』の一番を合唱したのです。後で奥様から伺った話なのですが、久世さんは滅多と人前で歌を歌わない方なんだとか、、、
昭和の歌世界の巨星、阿久悠さんが遺した歌を、昭和のテレビ界の巨星、久世光彦さんと楽しみを分かち合う経験の出来た僕は大変な贅沢者でした。
今亡きお二人の功績までもを継ぐというのは、大きく見積もり過ぎですが、もの創りに対する‘志’を継ぐことは不可能ではないはずなのです。
『円舞曲(わるつ)』 ちあきなおみ(1974年)
作詞 阿久悠 作曲 川口真
誰かが 円舞曲を 踊っています
幸せあふれた 二人です
私は飲めない お酒を飲んで
泣きたい気持を おさえます
海鳴り 漁火 海辺のホテル
一人に悲しい ワルツの調べ
別れの手紙を 綴っています
乱れた文字です ごめんなさい
あれこれ理由を 並べてみても
切ない心は 変わりません
海鳴り 漁火 海辺のホテル
一人に悲しい ワルツの調べ
明日もこうして 泊まっています
涙が枯れたら 帰ります
知らない誰かと 踊ってみたり
楽しくなるよう 努めます
海鳴り 漁火 海辺のホテル
一人に悲しい ワルツの調べ