僕は昨年半年にわたり自身のライブ、『歌謡見聞録』というものを行っていました。カバーを中心とした内容でしたが、ただ闇雲に選曲したのでは芸がないということで、毎回(計6回)一人の作家をフューチャーしその人の個性を皆さんに知って頂くということをコンセプトとしました。そのメンツは作詞家、なかにし礼さん、阿久悠さん。作曲家、都倉俊一さん、川口真さん、馬飼野俊一さん、馬飼野康二さんの計7名。ライブの公演回数の都合上人数を限定されてしまいましたが、その他特集したかった作家の中で最後まで迷いに迷ったのが、作曲家の穂口雄右(ほぐちゆうすけ)さん。理由としては提供曲に比較的女性歌手のものが多かった為、男性である僕が歌う場合のキーやイメージに若干の抵抗を感じるというところから、今回は見送らせて頂きました。
具体的に穂口さんの代表曲を挙げてみると、まずキャンディーズの『年下の男の子』『内気なあいつ』『春一番』『微笑みがえし』等の一連の作品。石野真子『失恋記念日』、林寛子『素敵なラブリーボーイ』、郷ひろみ樹木希林『林檎殺人事件』など、どれをとっても個性的な作品が目立ちます。この‘個性’という観点ではほぼ同世代の作曲家、都倉俊一さんと二強といっても良いかもしれません。しかし穂口作品の本当の魅力というのはファーストインプレッションによるキャッチーさが全てではなく、巧妙に練り上げられた編曲にあるのです。元々洋楽思考の強い穂口さんは歌謡界に実験的要素をふんだんに盛り込んだ作品を投げ掛けています。例えば『年下の男の子』はキャンディーズの最初のヒット曲として成功を修めていますが、実はこの曲には別バージョンが存在しレコーディングも終了していたものがありました。何故欠番になったのか、、それは当時の歌謡曲としては編曲が垢抜け過ぎていたことから‘難解’だと判断されてしまい、お蔵入りさせざるを得なかったらしいのです。シングルバージョンでも十分かっこよさを残していることから、欠番作品は相当なものが予想されますね。なんとかして聴いてみたい!
キャンディーズと穂口さんの関係は、少し大袈裟に例えるならば理想のカップルの様にも思えます。互いを高め合いながら、暇をさせない刺激を与え合う。単なるアイドルという枠で括られがちなキャンディーズですが、彼女達は譜面の初見が効く立派なミュージシャンです。そこに可能性を託した作曲家は鬼に金棒でしょう。特に中盤以降のキャンディーズ作品は面白いですよ。シングル曲ならば『その気にさせないで』や『わな』、ラストシングルの『微笑がえし』なんてのはもう奇跡的作品です。
かつて歌手と作家というものは、もっと距離の近い存在だったのかもしれません。というよりは、互いに近づこうという意思を持つ事が歌手として、そして作家としての‘欲’の表れだったのではないでしょうか。今がどうだとは言いません。僕には経験がありませんからね。ただ一つ言えることは、文章にせよ音源にせよ電波に乗せることが当たり前となっている現代では、偶然が幸を来たす確率が減りましたね。相手の顔色をうかがえないやり取りでは予想以上の成功は期待できないですから。アナログがいいという発想もデジタル社会を頼りにしている余裕から来るものなのかもしれません。でも歌はやっぱりアナログがいいですよ!音質がということではなく、工程が大事ということです。