山口百恵の曲を挙げて下さいと聞いて、まず「としごろ」を挙げる人はごく少数でしょう。一般的には「いい日旅立ち」や「プレイバックpart2」など、主に後期に発表された作品のイメージが色濃く残っている様で、デビューから3年間の作品はリアルタイム世代を除いて、印象が薄い傾向があります。そこが納得いかない!確かに、現在伝説となり受け継がれている‘百恵像’を構築したのは、後期の作品が中心となっているかもしれません。しかし、その土台ともなる加速度を与えていたのは紛れも初期作品であり、この時期の9割の作曲を担当していた作曲家、都倉俊一の存在です。
百恵初期作品では、後のピンクレディーとはまた別の路線が描かれており、中でもこの「としごろ」は地味に見えて、実はすごく都倉俊一色が感じられる作品だと思います。全体的な雰囲気、メロディーラインは、71年に発表された井上順「昨日・今日・明日」や74年発表の小林美樹「悲しい妖精」のB面曲「思春期の感情」を彷彿とさせていますし、コード進行で言う、♪~目を閉じて~♪の部分のE♭~Edimの流れは「五番街のマリーへ」のイントロ等でも垣間見ることが出来る王道の‘都倉コード進行’です。この曲は残念ながら大ヒットに繋がることはなく、対策として次曲から大きな路線変更が行われました。山口百恵全シングルの中、青空と太陽の匂いがする、最初で最後の一曲です。
『としごろ』 1973
千家和也 作詞/都倉俊一 作曲・編曲
一. 陽に焼けた あなたの胸に
眼を閉じてもたれてみたい
潮風が鼻をくすぐる
訳もなく 泣き出す私
あなたにすべてを見せるのは
ちょっぴり恐くて恥しい
私が私でなくなるの
くちびるを やさしく噛んで
めざめてくる としごろよ
二. 乱れてる あなたの髪を
やわらかく とかしてみたい
ふりそそぐ陽ざしの中で
感じるの 大人を私
ふたりの間に美しい
何かが生まれて来るみたい
私が私でなくなるの
手のひらに泪をためて
めざめてくる としごろよ